生存マニュアル – 議論沸騰の「死んだふり」は本当にNGか、有効か?
こんにちは。
これまでの記事で、2025年のクマ被害が「観測史上最悪」であること、そしてその原因が「山の不作」だけでなく、人里の「放置果樹」などがクマを“学習”させてしまった 2 ことにあると分かってきました。
正直、リサーチすればするほど、「都市部に出没するクマは、もう人里を“エサ場”と認識している」という現実に、恐怖が増しています。
僕も、あなたが「出会ったら腰を抜かしてしまう」8 と感じているのと全く同じです。
もし、その「万が一」が起きてしまったら?
「走って逃げろ?」「いや、逃げるな?」
「『死んだふり』はダメって本当?」「でも、昔は有効だって習わなかった?」
情報は錯綜し、パニックになりそうです。
今回は、あなたの(そして僕の)命を守るため、専門家の見解を整理し、「本当にすべきこと」と「絶対にしてはいけないこと」を、フェーズ別に徹底解説します。

フェーズ1:【予防】 – 最強の対策は「出会わないこと」
まず大前提として、クマ対策の99%は「予防」です。出会ってからの対処法は、あくまで最終手段。
- 音で「人間の存在」を知らせるこれが最も重要です。クマは本来、人間を避けたいと思っています。山や出没しやすい地域に入る際は、クマ鈴、ラジオ、あるいはスマートフォンのアプリ 9 などで常に音を出し、「ここに人間がいますよ」と知らせましょう。
- 単独行動を避けるできるだけ二人以上で行動してください 10。
- 時間と場所に注意クマの活動が活発になる早朝や夜間 、そして見通しの悪い林や川沿い 10 での行動は、リスクが格段に上がります。
- クマを「招待」しない第2回の記事の復習ですが、生ゴミや食べ物を野外に放置しない 10。ペットフードを屋外に置かない 。絶対に餌付けをしない。これが鉄則です。
フェーズ2:【遭遇】 – 「走るな、背中を見せるな」

予防もむなしく、出会ってしまった場合。
ここでのパニックが、生死を分けます。
- 絶対NG行動①:全速力で逃げるダメです。クマには走るものを反射的に追いかける習性があります 11。クマは山道でも時速50km以上 11 で走れ、人間が逃げ切ることは不可能です 8。
- 絶対NG行動②:背中を見せるこれも「逃走する獲物」とみなされ、追いかける本能を刺激します 1。
では、どうすればいいのか?
- 推奨行動:目を離さず、ゆっくり後退する落ち着いてください。クマがこちらに気づいていたら、クマから目を離さず(ただし、睨みつけるのはNG)、クマの様子を見ながら、ゆっくりと後退します。騒いだり、大声を出したりしてもいけません 。静かにその場を離れるのが鉄則です 。
フェーズ3:【大論争】 – 「死んだふり」は有効か? NGか?

ここで、最大の混乱ポイント「死んだふり」について、結論を出します。
なぜ情報が錯綜しているのか? それは、「NGな理由」と「有効な(かもしれない)理由」が、全く別の状況を指しているからです。
なぜ「NG」と言われるのか?
- 理由:クマは死んだ動物も食べる(腐肉食性)から。遭遇した(フェーズ2の)段階で自ら地面にうずくまるのは、「どうぞ食べてください」と無抵抗なエサになるようなもの 。だから、遭遇時の対処法としては「死んだふり」は絶対にNGです。
なぜ「有効」という説もあるのか?
- 理由:それは「遭遇時」ではなく、「攻撃された時」の“防御姿勢”だから。クマに9回襲われて生還した専門家の米田一彦氏は、「死んだふりは有効だ」と主張しています。これは「遭遇時にやれ」という意味ではありません。もし、クマが(子熊を守るためなど)防衛的に突進してきて、攻撃が避けられない「最終フェーズ」に入った場合、下手に反撃するより「ある姿勢」をとった方が生存確率が上がる、という意味です 。
フェーズ4:【攻撃】 – 命を守る「最終防御姿勢」

もし、ゆっくり後退してもクマが突進してきたり、攻撃が避けられない事態になったら。
これが、専門家が言う「“ある姿勢”=パッシブ・ディフェンス(消極的防衛)」の出番です。
- 推奨行動:うつ伏せになり、急所を守る
- うつ伏せになります。
- 両腕で、頭部、顔面、そして首筋をがっちりと覆い、致命傷を避けます 。
- (可能なら)足を少し開いて地面に踏ん張り、クマにひっくり返されにくくします。
これはクマを「騙す」ための“死んだふり”ではありません。
クマの防衛的な攻撃(「こいつは脅威だ!」という攻撃)を、致命傷を避けてやり過ごすための、最後の「防御姿勢」です。
まとめ:命を守る行動チャート
混乱を整理するため、フェーズ別に「すべきこと」をまとめます。
| フェーズ | 状況 | 〇:推奨される行動 | ×:絶対NGな行動 |
| 1. 予防 | クマと出会う前 | 音を出す(鈴、ラジオ)9 | ゴミを放置する 10 |
| 2. 遭遇 | クマを見つけた | 目を離さず、ゆっくり後退 1 | 走る 11、背中を見せる 1 |
| 3. 攻撃 | 攻撃が避けられない | うつ伏せで頭・首を守る 10 | 遭遇時にいきなりコレをやる |
「死んだふり」とは、この「フェーズ3:攻撃」の防御姿勢が、誤って伝わったものだったのです。
まずは「予防」を徹底し、万が一「遭遇」したら、パニックにならず「ゆっくり後退」する。
これを肝に銘じてください。
【次の記事(第4回)予告】
命の守り方は分かりました。しかし、これほど危険な動物が市街地 3 にまで現れる今、本当に「駆除」は必要なのでしょうか?
「かわいそう」という感情と、「危ない」という現実。
次回は、この問題で必ずぶつかる「駆除の是非」と、その裏にある「駆除体制の崩壊」という社会問題に踏み込みます。