クマ駆除

クマの駆除は必要か? -

「かわいそう」と「危ない」の狭間で…ハンターが“来ない”最悪の現実

こんにちは。 これまでの記事で、2025年のクマ被害 がなぜ起きているのか(山の不作 と人里の“ごちそう” )、そして出会ってしまったらどうするか を見てきました。  

リサーチを進めるほど、クマの「学習能力」の高さを知り、彼らがいかに賢く、そして時に「都市型」 してしまっているかを知りました。  

ここで、僕たち(そして社会)は、最も重い問いに直面します。 「クマの駆除は、本当に必要なのか?」

僕も、あなたの「クマも命がけなのだと思う」という気持ちが、痛いほど分かります。 第2回で書いたように、彼らは生きるために必死でエサを探し 、人里の柿や栗の味 を覚えてしまった。その結果、人里に出てきてしまう。  

だから、「かわいそう」という感情が湧くのは、当然です。

しかし、第1回で見たように、今年はすでに死亡事故が過去最多 を更新しています。第3回で学んだ生存術 があっても、実際に「猛獣」 に襲われれば、命の保証はありません。  

もし、クマが「小学校の校門前」 に居座っているとしたら? 「かわいそう」という感情論だけで、その場を立ち去ることができるでしょうか。 「危ない」から、子どもたちを守るために、誰かが対処しなければならない。  

悲しいことですが、人命が最優先される緊急事態において、「駆除」は「必要悪」として選択せざるを得ないのが現実なのだと思います。

…しかし。 僕が今回、この問題をリサーチして本当に震えたのは、「駆除の是非」を議論している“以前”の問題が起きていたことです。

それは、 「いざ駆除が必要な時、その“担い手”が来ないかもしれない」 という、公衆安全の「崩壊」シナリオです。

守ってくれるはずの人がいない - 積丹町「猟友会出動拒否」の衝撃

第1回でも触れた、北海道積丹(しゃこたん)町の問題 。 この事件こそが、僕たちの「駆除体制」がいかに脆いかを象徴しています。  

  1. 発端:9月27日、体重284kgという巨大なクマ が捕獲された現場で、町の町議会副議長と、駆除にあたった猟友会のハンターが口論になりました 。  
  2. “パワハラ”発言:複数の関係者によると、安全のために現場から離れるよう促された副議長は、ハンターに対し「誰にモノを言ってるか」「(ハンターの人数が多いことに)金貰えるからだろ」「俺にそんなことするなら、辞めさせてやる」といった、地位を背景にした「パワハラ」とも取れる発言をしたと報じられています 。  
  3. 体制の麻痺:これを受け、猟友会は「もう駆除はやりたくない」として、町からの「出動要請を拒否」。副議長は「僕は悪くない」と謝罪を拒否 し、対立は1ヶ月以上も続きました。  
  4. 最悪の事態:そして10月30日。「小学校の校門前にクマ2頭が居座る」という緊急通報 。しかし、専門家である猟友会は出動できません。結果、小・中学校は「臨時休校」。町の安全が、完全に麻痺したのです。  

なぜ、ハンターは「来なく」なるのか?

「駆除は必要か?」と僕たちが議論している裏で、その駆除を(多くの場合、ボランティアか、その危険性に見合わない僅かな報酬で )引き受けてくれているハンターたちが、限界に達していました。  

積丹町の事件は、氷山の一角です。 彼らが直面しているのは、

  1. 命の危険:相手は猛獣です。
  2. 社会からの非難:駆除を実行すれば、一部から「かわいそう」「殺すな」という抗議の電話やクレームが寄せられます。
  3. 政治からの圧力:そして積丹町の例 のように、地域や行政からリスペクトされるどころか、「金目当て」「辞めさせてやる」とまで言われる。  

…こんな状況で、「よし、地域のために命を張ろう」と誰が思えるでしょうか。 ハンターの高齢化と後継者不足が叫ばれる中、彼らの「善意」と「自己犠牲」の上に、僕たちの安全はギリギリで成り立っていた。

積丹町の事件は、その「善意」が、たった一人の政治家の不適切な言動(とされるもの)によって、いかに簡単に壊れてしまうかを見せつけました。

まとめ:「必要か?」の前に「誰がやるのか?」

「駆除は必要か?」 僕の答えは、「人命に危険が迫る緊急時においては、悲しいが必要だ」です。

しかし、今回のリサーチでたどり着いた本当の危機は、そこではありませんでした。 「駆除」という“汚れ仕事”を、社会的な尊敬も、十分な報酬も、政治的なサポートもないまま、現場のハンターたちの「善意」に押し付け続けてきた結果、その体制自体が崩壊の瀬戸際にある、ということです。

「かわいそう」と「危ない」の感情論で対立している間に、その「危ない」から私たちを守ってくれる最後の砦が、静かに撤退を始めている。 これこそが、2025年の「クマ駆除」トレンドの裏に隠された、最も深刻な社会問題なのです。


【次の記事(第5回)予告】 「駆除」という手段が、これほど社会的に不安定なものだとしたら… 僕たちは、もう「駆除」だけに頼ることはできません。

では、「殺す」以外の方法で、この問題を解決する道はないのでしょうか? 「うまく共存する方法はないのか?」 次回は、国内外の「賢い」共存の成功例を徹底的にリサーチします。

  • この記事を書いた人

ワッシィ

生きてるうちにおもろいことしときましょ!

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