今朝、マンションの管理室に、いつものように可愛い声が響きました。
「今日ね、幼稚園でクリスマス会があるの！」
そう言って、キラキラした目で教えてくれたのは、毎朝ご挨拶をしてくれる幼稚園児のあの子。
「行ってらっしゃい！」とハイタッチをして送り出す。
この、ほんの数十秒のやり取りが、僕の毎日の楽しみであり、密かな癒やしになっています。
カゴに入れようとした「喜び」
その日の帰り、スーパーに立ち寄った時のことです。
ふと目に飛び込んできたのは、お菓子がぎっしり詰まった、真っ赤な「クリスマスブーツ」。
「あの子にプレゼントしてあげたら、どんなに喜ぶだろうなぁ」
そう思うと、自然と手が伸びました。
あの子の笑顔を想像しながら、カゴに入れようとした……その瞬間でした。
ふと、今の僕を取り巻く「現実」が頭をよぎったのです。
立ち止まって考えた「三つの壁」
今の世の中、純粋な「良かれと思って」が、必ずしも正解になるとは限りません。
- 教育方針の壁： 「お菓子を制限している」「食べさせてはいけないものを決めている」というご家庭も多い現代。せっかくのプレゼントが、親御さんにとって「余計なこと」になってしまう可能性。
- 立場の壁： 僕はマンションの管理人という立場です。特定の子にだけ特別なことをすれば、他の住人の方からどう見えるか。
- ルールの壁： 会社としての規定や、トラブルへの懸念。
「むずかしい世の中だよなぁ」
そんな言葉が心に浮かんできました。
せっかくの善意が、誰かを困らせたり、自分を追い込んだりするきっかけになるかもしれない。
そう考えると、迂闊なことはできません。
見えない優しさの形
僕は結局、手に取ったクリスマスブーツを、そっと元の棚に戻しました。
寂しい気もしましたが、これで良かったのだと思います。
プレゼントという「物」は渡せなかったけれど、毎朝の「行ってらっしゃい！」という言葉に、目に見えないクリスマスプレゼントを詰め込んで、精一杯のハイタッチを続ける。
それが、今の僕にできる、最も「安全で、かつ温かい」距離感の取り方なのかもしれません。
あの子が幼稚園のクリスマス会で、たくさんのお土産と思い出を抱えて帰ってくることを願いながら、僕は明日も管理室で、いつもの笑顔で待っていようと思います。
